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【映画】-20 『虐殺器官』ゼロ年代の天才は何を遺したか?

※この記事は、映画の内容について若干のネタバレを含みます。ネタバレを好まない方は映画を見た後お読みください。

伊藤計劃三部作最後の作品『虐殺器官』がやっと公開されました。

project-itoh.com

 9.11以降、テロとの戦いを経験した先進諸国は、自由と引き換えに徹底的なセキュリティ管理体制に移行することを選択し、
その恐怖を一掃。一方で後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加。世界は大きく二分されつつあった。
ラヴィス・シェパード大尉率いるアメリカ情報軍特殊検索群i分遣隊は、暗殺を請け負う唯一の部隊。
戦闘に適した心理状態を維持するための医療措置として「感情適応調整」「痛覚マスキング」等を施し、更には暗殺対象の
心理チャートを読み込んで瞬時の対応を可能にする精鋭チームとして世界各地で紛争の首謀者暗殺ミッションに従事していた。
そんな中、浮かび上がる一人の名前。ジョン・ポール。
数々のミッションで暗殺対象リストに名前が掲載される謎のアメリカ人言語学者だ。
彼が訪れた国では必ず混沌の兆しが見られ、そして半年も待たずに内戦、大量虐殺が始まる。
そしてジョンは忽然と姿を消してしまう。彼が、世界各地で虐殺の種をばら撒いているのだとしたら…。
ラヴィスらは、ジョンが最後に目撃されたというプラハで潜入捜査を開始。
ジョンが接触したとされる元教え子ルツィアに近づき、彼の糸口を探ろうとする。
ルツィアからジョンの面影を聞くにつれ、次第にルツィアに惹かれていくクラヴィス
母国アメリカを敵に回し、追跡を逃れ続けている“虐殺の王”ジョン・ポールの目的は一体何なのか。
対峙の瞬間、クラヴィスはジョンから「虐殺を引き起こす器官」の真実を聞かされることになる。

出典:公式HP

 

1.伊藤計劃という作家について

伊藤計劃と言う作家は、『早逝の作家』『ゼロ年代注目のSF作家』として語られることが多いです。

伊藤氏は2009年34歳という若さで亡くなったこともあり、ごくわずかな作品群を残したのみでしたが、デビュー作『虐殺器官』が「小松左京賞」最終候補作に選出され、その後は「ゼロ年代SFベスト国内編」1位を獲得するなど、デビュー当時から注目を集めます。

SF文学界において、多くの有名作品が海外作家(ディックとか)によるものであり、日本人で傑出した人物が近年見られない中であったため、『ゼロ年代(00年代)のSF作家』として注目を集めました。

※自分はライトなSF好きなので細部はわかりません。

 詳細は、以下Wikipedia等ご参照

伊藤計劃 - Wikipedia

著者インタビュー:伊藤計劃先生

デビュー当時から、これほどに注目されていたにもかかわらず肺がんにより短い生涯を終えたことは、非常に悔やまれることです。

 

2.本作が他2作より遅れて公開となった理由

本作は、伊藤計劃氏の長編3作品(『虐殺器官』『ハーモニー』『死者の帝国』ただし、『死者の帝国』は、伊藤氏の遺稿を円城塔が完結させたもの。)の1作として映画製作開始。しかし、制作会社マングローブが倒産

他2作から1年以上遅れての公開となりました。

マングローブの他作品は、サムライチャンプルー戦国BASARA(ゲーム)のムービーなど…

animeanime.jp

 『シン・ゴジラ』や『君の名は。』の大ヒットで配給会社東宝が非常に好調な決算をたたき出す一方、現場の制作会社は苦しい現状が垣間見えます。

 

3.本作のメインテーマは?

 さて、本作の本質的なテーマは何かを考えると非常に難しいことに気づきました。

虐殺?9・11後の世界?それとも言語と意識?

前掲の著者インタビューにおいて、伊藤氏自身が語っているように彼のSF感を"テクノロジーと社会の関係"として見た場合、

・様々な個人認証/追跡技術⇔9・11後の監視社会

・痛覚マスキング/戦闘適応感情調整⇔内戦世界と平和な世界

といったテロ以後の技術及び社会変化が描かれていることがわかります。

 本作でキーになるのはやはり、いくつかのパラレルな設定です。

 

先ほど挙げた9・11ないしはサラエボでの核によるテロ以後の世界として設定されているテクノロジー及び社会構造を対立軸として整理し直します。

1つ目が、"社会"について、

個人認証/追跡技術の強化により、個人の自由を制限しながら平和を得た先進国社会

テロ以前と同じく個人に自由はあるが内戦により荒廃し、虐殺地獄と化した新興国社会

 まさに、「天国と地獄」という構造です。

ラヴィスらは、アメリカ人という設定であり、虐殺の首謀者と目されるジョンを追って内戦地域とアメリカを行き来します。

アメリカでは、ピザを食べながらアメフトを見るなんの不安もない生活。

内戦地域に潜入し、虐殺の真っただ中へ。

この二元的な社会構造がポイントです(分断された社会にも理由があるとわかります)。

また、クラヴィスのチームメンバーであるアレックスは「本当の地獄は頭の中にある」と言います。

この言葉は、冒頭で述べられますが非常に示唆的な言葉です。ある意味で著者の意図を示した言葉であると思います。

 

もう一つの対立軸は、

ラヴィスらが受ける痛覚マスキング/戦闘適応感情調整

ジョン・ポールにより誘引される虐殺の器官

です。

ラヴィスがジョンと対峙した際、どのようにジョンが虐殺を指揮しているかが明かされますが、これがクラヴィスらが作戦を実行する前に受ける感情調整と無関係でないことがわかります。

ジョンが以前はアメリカ政府の庇護のもと研究していた、という設定にも注目すべきかもしれません。

 

戦争と平和、自己と意識、争いの中交錯する事象を照らし合わせて見えてくるのは、

自身の信じているものすべてが作られたもの(フィクション)なのではないか?

ということです。

 

4.まとめ-映画と小説のエンディングの違いについて

最後に映画と小説のエンディングが異なることについてちょっとだけ付言しておきたいと思います。

映画では、小説のエンディングより若干手前で終わります

小説でいうエピローグ部分が描かれないわけですが、これがあるなしでかなり印象が違います。

 小説では、最終的に社会が混沌に陥って終わります(これはクラヴィスの行動によるものですが、これも意思によるものかというとまた微妙。)

対して、映画ではそこまで描かれませんので、クラヴィスが正義のまま終わったようにも見えますし、個人的憎悪を社会にぶつけたようにも解釈できます。

是非、映画と小説を比較していただきたいです。

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)